ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

21 顔面痙攣

50代女性に多く発症

「顔面神経麻痺(まひ)」とまったく正反対の疾患が「顔面痙攣(けいれん)」である。片側の顔面の筋肉が勝手にピクピクと周期的に動く。初期には、下まぶたに軽い痙攣を認めるだけだが、やがて上まぶたにも起こるようになり、すれちがった人にウインクをしたと勘違いされてしまう。さらに半年~数年後には頬部、頸部へと広がり、口元がひきつれるようになる。痛みはないが、新聞を読むことやテレビを観ることが難しくなり、その精神的苦痛は大きい。

また、困ったことに人前に出て話をする時など、緊張した状態で起こりやすい。意識的に目を閉じようとすると、かえって痙攣を誘発してしまう。痙攣を自分の意志で止めることは不可能で、この点がいわゆる「チック症」とは異なる。目と口の痙攣が同期することが特徴であり、痙攣は睡眠中にも起こる。

五十歳代の女性に発症することが多く(男性の約二・五倍)、子供にはみられない。頭蓋内で、血管(主として動脈)が顔面神経を圧迫することが原因である。

治療法として、トランキライザーをはじめとする薬物の投与が試みられているが、ほとんど無効と言ってよい。ペインクリニックでは、茎乳突孔部(耳の後ろにある)での顔面神経ブロック(微量のエチルアルコールを注入、ないしは針によって物理的に圧迫する)が行われている。しかし、この方法では、一時的に顔面神経麻痺を引き起こし、熟練しない医師が行った場合には、外耳道穿刺(せんし)などの合併症を生じることも少なくない。従って、私どもの施設では、オブライエン法(顔面神経の末梢(まっしょう)枝のブロック)を行い、良好な治療成績を得ている。手術療法としては、神経血管減圧術(ジャネッタの手術)がある。

また、最近では、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌として有名)によって産生されるA型毒素が治療に用いられている。痙攣を起こしている筋肉内に少量の毒素を注入すると、痙攣は約三カ月間、完全に消失する。しかし、現在、わが国で、この治療法を行うことができる施設は限られており、かつ保険の適応はあるものの、一回の治療費が約十万円と極めて高価である。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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