ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

24 痛みの伝達

必要不可欠な警告信号

向こう脛(ずね)を強く打ちつけたとき、思わず「痛い」と叫び、少し間をおいてうずくまってしまう。この場合、最初に鋭い痛み(fast pain)を感じ、その後に「じわ~」とした鈍い痛み(slow pain)が数分間続く。痛みのダブル・パンチで武蔵坊弁慶もノックアウトだ。なぜこれら性質の異なる二種類の痛みが起こるのだろうか。

打ち身などによる痛み刺激は、皮膚や粘膜、さらには筋肉や内臓に分布している侵害受容器(末梢(しょう)神経の末端に露出している)を興奮させる。なお、この痛みの受け皿である侵害受容器には、機械的刺激に反応する高域値機械的侵害受容器と、機械的ならびに化学的、熱刺激などを感知する多様式(ポリモダール)受容器の二つがある。前者からの情報は末梢神経のAデルタ線維、後者からのものはC線維により、脊髄(せきずい)さらには脳の痛み中枢へと伝えられ、終着駅の大脳皮質に達して痛みとして感じられるのである。

この場合、末梢神経のAデルタ線維の伝達スピードは毎秒12~30㍍、C線維は0.5~2㍍と異なることから、向こう脛を打ちつけると、Aデルタ線維による鋭い痛みを感じた後に、少し間をおいてC線維による鈍い痛みが生じる。

これら痛みの伝達経路を一本の木に例えるならば、末梢神経は枝であり、その枝の先端が受容器、脊髄は幹ということになる。

包丁で指を切ってしまったり、やけどを負った時にもまずAデルタ線維による鋭い痛みが起こる。しかし、その後(約20秒後)に生じる痛みは数分間どころではなく、数時間~数日間にわたって続くことがある。これは組織の損傷によって炎症が起こり、痛みを起こす物質(発痛物質…血液に含まれるブラジキニンやセロトニン、壊れた細胞からのカリウムなど)が放出され、傷が治るまでその発痛物質が暴れ回ることで生じる。

なお、向こう脛をしこたま打ちつけたぐらいでは、これらの発痛物質が暴れ回ることはなく、痛みは数分間で治まる。いずれにしても、これらの痛みは「急性痛」と呼ばれ、身のまわりの危険から私たちを守ってくれるアラームであり、正常な身体機能を維持するために必要欠くべからざる警告信号である。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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