ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

27 刺激鎮痛法

細い電極で脊髄をハリ治療

痛みのある部位を擦ったり圧迫すると、不思議と痛みが和らぐ。この現象は、痛みの“門番”がその入力を調和しているとする『門調節系説』によって説明される。この学説を応用した治療法が「刺激鎮痛法」である。

刺激鎮痛法とは、何らかの刺激を人体に与えて痛みを和らげようとする方法で、古代ローマ時代のシビレエイによる治療などもそのひとつであったと考えられる。この治療法はその刺激部位から末梢(しょう)刺激、脊髄(せきずい)刺激、脳刺激の3つに大別される。末梢刺激の代表は、中国より伝承された鍼灸治療である。その他、指圧や温熱療法、レーザー治療、家庭用低周波治療器を用いるものなどがある。脳刺激では、主として求心路遮断性疼痛(痛みの伝達経路の障害)と呼ばれる痛みに対して、脳深部(視床中継核)や大脳皮質に専用の電極を埋め込んだ上で、電気刺激を行う。

さて、私どものペインクリニックで積極的に行っているのが脊髄刺激である。麻酔科では、硬膜外腔(脊髄の背側に存在する空間)に細いチューブを挿入して薬液を注入し、手術による痛みや慢性痛をとり除いているが、脊髄刺激ではこのテクニックを応用する。つまり、チューブを挿入する代わりに細い電極を硬膜外腔に挿入し、硬膜を通じて脊髄を刺激するのである。鍼治療を脊髄に対して行うと想像してほしい。通常は電極を埋め込んだ後に約一週間の観察期間を設けて、刺激器(ペースメーカー程度の大きさ)の永久埋め込みを行う。この脊髄刺激は難治性の慢性痛に対して広く用いられるが、腰椎手術後に残る腰下肢痛をはじめとして、神経因性疼痛、閉塞性動脈硬化症や閉塞性血栓血管炎(バージャー病)などが特に良い適応となる。

なお、これら刺激鎮痛法の多くは電気による刺激効果を利用するが、この電気刺激は電気が科学的に認識されるよりはるか昔から行われていた。フランクリンによる「雷が電気であること」の発見、平賀源内の「エレキテル」よりもはるか前である。余談ではあるが、電気を意味する英語のelectricityは、古代ギリシャ語のελεκτρον(琥珀を意味するが、琥珀を擦ると静電気によって羽毛などが吸い寄せられることを指す)に由来する。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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