ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

31 舌咽神経痛

電気が走るような発作

「三叉(さんさ)神経痛」と間違われやすい疾患に「舌咽(ぜついん)神経痛」がある。第九番目の脳神経、「舌咽神経」は咽頭、扁桃、舌根、鼓室などの知覚をつかさどっているが、三叉神経痛の場合と同様に、神経が頭蓋内で血管に圧迫された結果、神経線維が漏電を起こすことで痛みを生じるのである。

発作性に「電気が走るような」「えぐられるような」痛みが数秒から一分程度、咽頭~舌根、耳の奥などに起こるが、発作時以外は無症状である。食物を飲み込むことで痛みが誘発される点が三叉神経痛(食物を口に入れるだけ、ないしは咀嚼(そしゃく)で起こる)とは異なる。また、三叉神経痛で夜間の痛みをみることは稀だが、舌咽神経痛では約半数の患者さんが夜間、痛みを訴える。ときに舌咽神経からの刺激が「迷走神経」(第十番目の神経)に及び、徐脈(脈拍が毎分五十未満の状態)、嗄(か)れ声、嚥下(えんげ)困難(口腔内の食べ物、飲み物を飲み込むことが難しい状態)を生じることがあり、ひどい場合は、めまいや失神発作を引き起こすので厄介だ。

なお、小脳橋角部の腫瘍(しゅよう)や血管奇形、脳底動脈瘤、咽頭がんによっても同様の痛みを起こすことがある。

三叉神経痛と同じく五十~六十代に起きやすく、女性にやや多い。しかし、その発症率は三叉神経痛の1%程度である。診断にあたっては、のどの奥に局所麻酔薬のスプレーを噴霧し、発作が収まることを確認する。治療は、薬物治療、神経ブロック、手術療法を段階的に行う。三叉神経痛に対する場合と同様、通常の鎮痛薬や麻酔はまったく効かない。したがって、抗痙攣(けいれん)薬のカルバマゼピン(テグレトール)やフェニトイン(アレビアチン)の内服から開始するが、これらだけで鎮痛を得る患者さんは半数に満たない。

ペインクリニックでは、舌神経ブロックで対処する。これにより痛みは即座に消えるが、永久的な効果を得ることは難しい。なぜならば、舌咽神経の周りには迷走神経をはじめ重要な臓器が存在するから、神経破壊剤を用いた永久的ブロックの適応とはならないからである。第三段階としては、耳鼻咽喉科での舌咽神経切断術、脳神経外科での神経血管減圧術(ジャネッタの手術)が行われる。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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