ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

36 舌の痛み

全身疾患の可能性も考慮して

「舌が痛くて食事や会話が制限される」として、ペインクリニックを受診される患者さんがいる。舌の表面に存在する舌乳頭には味蕾(みらい)があり味覚を伝えているが、そのほか、舌は咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)、構音などの重要な機能を担っている。

この舌に痛みを生じるものの代表が「舌痛症」である。舌痛症とは、原因が特定できない場合に用いられる病名で、「舌に明らかな器質的な変化を認めず、表在性かつ自発性の痛みあるいは異常を訴える」場合を指す。心因性要素の関与が大きいものと考えられ、中年の神経症傾向の強い女性に多く見られるが、歯、補綴(ほてい)物、義歯などが発症のきっかけとなる。舌尖部、舌縁部に痛みを生じ、口腔乾燥感や味覚異常感を伴う。併せてがん恐怖を訴えられることも多い。治療法としてはビタミンB群、鉄剤、漢方薬(柴朴湯)の投与、義歯調整などが試みられているが、十分な効果は挙げていない。これに対し、私どもは星状神経節ブロック、抗うつ薬の投与により対処している。

その他、舌に痛みを来す疾患としては舌炎、舌潰瘍(かいよう)、舌がんなどがある。舌炎では萎縮(いしゅく)性舌炎、アフタ性舌炎の頻度が高い。萎縮性舌炎では、前述の舌乳頭のうちの糸状乳頭が萎縮することで舌の表面が平滑になり光沢を呈する。このことから平滑舌とも呼ばれ、ヒリヒリとした灼(しゃく)熱感を生じる。アフタ性舌炎は、米粒~大豆大の浅い潰瘍を形成し、接触による痛みを生じる。通常、アフタ性口内炎を併発するが、原因は不明なことが多く、疲労、感冒、胃腸障害が関与すると考えられている。

一方で、境界がはっきりした小さな潰瘍が舌、口唇、頬粘膜に多発して、再発を繰り返す場合にはベーチェット病が考えられる。

舌がんに対しては放射線治療が広く行われるが、初期には炎症性の痛み、後期には壊死(えし)性の痛みが現れる。私どもの施設では、この後期の舌や下顎骨の痛みに神経破壊薬を用いた下顎神経ブロックを行い、効果を上げている。

なお、他の全身疾患によっても舌の症状や色調、舌乳頭に変化を生じることから、舌に限局した病変であっても、全身疾患の可能性を念頭に置いておく必要性がある。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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