ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

87 硬膜外ブロック

首からつま先までの痛みに適応

神経ブロック療法は、痛みを脳に伝える役割を担っている神経機能を遮断(ブロック)する「知覚神経ブロック」と、血圧や脈拍などを調節し、かつ痛みの慢性化に関与している交感神経を遮断する「交感神経ブロック」に大別される。この両者を同時に、さらには運動神経の機能をも含めて遮断するのが「硬膜外ブロック」である。

硬膜外ブロックでは、脊髄(せきずい)の背側に存在する硬膜外腔に薬液を注入する。硬膜は脊髄を包んでいる一番外側の膜で、硬膜外腔とは、首の付け根(大後頭孔)~尾てい骨の上部まで続く幅数ミリのすき間の繋がりである。したがって、頭部と顔面を除く、首~つま先の痛み、血流障害などが本ブロックの適応となる。

「えーっ、脊髄に注射するのー」と、勘違いされることもあるが、脊髄に針を刺すのではありません。

硬膜外ブロックには、単回法と専用のカテーテルを留置する持続法とがある。単回法は外来での施行が可能であり、局所麻酔薬と副腎(じん)皮質ステロイド薬を注入する。持続法では、カテーテルにフーセンのような注入器を取り付けて、二十四時間連続して局所麻酔薬などを注入する。

なお、注入する薬液量を加減することでブロックする範囲を調節したり、局所麻酔薬の濃度を変えることで神経機能の一部を残すことが可能となる。つまり、低濃度の局所麻酔薬を使用すれば、持続注入中であっても自由に歩き回ることができるのである。

癌(がん)性疼痛(とうつう)に対しては、局所麻酔薬にモルヒネを添加することが多い。この場合、モルヒネは、経口で痛みを取り去ることが可能な量の十五分の一で十分であり、モルヒネによる副作用防止の面からも有用である。

かく言う私もこの硬膜外ブロックの恩恵にあずかった一人である。頸(けい)椎(つい)椎間板ヘルニアによる激痛に苦しんでいた時期に、頸部の硬膜外ブロックを受けた。薬液の注入後、スーッと痛みがとれた時には、さしずめ“蜘蛛の糸”を見つけた犍(かん)陀多(だた)の気分であった。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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