ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

98 脊髄損傷後の痛み

麻痺を残した人の過半数に発生

「脊髄(せきずい)損傷」は、交通事故やスポーツ、墜落などにより脊髄を保護している背骨が潰れる、腫瘍や梗塞によって脊髄が直接的に障害される、といったことで発生する。頸(けい)部脊髄の損傷が多い。

脊髄とは脳から伸びている神経の束であり、脳の命令を人体の各部に伝えたり、逆に各部からの情報を脳に伝える機能を担っている。この脊髄が損傷されると、損傷部位以下の神経機能(運動や感覚)が麻痺(まひ)し、さらには自力での排尿や排便が困難となり、呼吸機能の低下などを生じる。

米国では、年間一万二千~一万五千人が脊髄の損傷を受け、うち約一万人が恒久的な麻痺を残しているとのデータがある。彼らの多くが十五~三十五歳の若者であることは、深刻な問題である。

治療には早期には副腎皮質ホルモン薬の投与、脊髄を圧迫している物質を除去し、背骨を固定する手術などが行われる。しかし六カ月たっても機能が戻らない場合は、恒久的な麻痺となることがある。

恒久的な麻痺に対して、慶応大学医学部整形外科は、成人の鼻粘膜から採取した細胞と胎児の神経幹細胞による治療を試みている。また京都大学医学部機能微細形態学教室では、患者さん自身の骨盤の骨髄間質細胞を培養して脊髄液中に注入する治療法の研究が進められている。

さて、不幸にして恒久的な障害を残した場合、感覚が麻痺している部位に痛み(求心路遮断痛)を生じることがある。触ってもつねっても分からないのに痛いのである。米国クリストファー・リーブ麻酔財団のワイズ・ヤング医師は「脊髄損傷を受けた方の約55%が求心路遮断痛に悩まされている」としている。

私どもの施設では、この「脊髄損傷後の痛み」に積極的に取り組んでいる。脊髄機能の一部が残されている不完全損傷では、硬膜外腔(脊髄の外側に存在する空間)に電極を挿入して通電することで、良好な効果を得ることが可能だ。また、完全損傷による下肢の痛みに対しては腰部交感神経節ブロックを選択している。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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