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Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

100 腕神経叢引き抜き損傷

神経移植術など手術療法を適用

「腕神経叢引き抜き損傷」の多くは、バイク事故によって上肢(腕)が過度に伸展することによって発症する。腋(わき)の下を走る神経(腕神経叢)が引きちぎられるのだ。

腕神経叢は、脊髄(せきずい)から出る第五~八頸神経、第一胸神経により構成される。これらの神経は複雑に組み合わさって上肢の運動、感覚の伝達を担う正中神経、尺骨神経、橈(とう)骨神経、肩関節周囲に枝を出す肩(けん)甲(こう)背神経、肩甲上神経などを形成する。

この神経叢が損傷を受けた範囲により全型、上位型、下位型、末梢(まっしょう)型に分類されるが、全型では上肢の運動がまったく不可能になり、感覚も分からなくなる。上位型では腕を持ち上げることや肘関節の屈曲ができなくなり、下位型では前腕から手指の麻痺が目立つようになる。また第一胸神経の損傷では、ホルネル徴候(瞼(まぶた)が下がり、瞳孔が小さくなる)の出現をみることがある。

治療方針を決定するにあたっては、知覚神経の活動電位、体性感覚誘発電位、脊髄造影などの検査を行ったうえで、損傷の範囲や程度を把握することが重要である。これらに損傷後の期間を加味して、整形外科では神経移植術や腱(けん)移行術、関節固定術といった手術療法の適応を考える。たとえ全型の損傷であっても、肋間(ろっかん)神経や横隔神経を筋皮神経(上腕二頭筋や上腕筋に枝を出している)に移行すれば肘関節を曲げられるようになるのだ。

なお、約50%の頻度でこの知覚を失った部位に激しい痛みを生じることがある。この痛みは「脳卒中後疼痛」や「脊髄損傷後疼痛」と同様に「求心路遮断痛」として発生する。

痛みに対して、ペインクリニックでは、星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、経皮的埋め込み脊髄電気刺激療法などを行っている。さらには、他の求心路遮断痛と同様に、チアミラール(全身麻酔薬)やケタミンの静脈注射によって、奏功する可能性のある薬物を探し出すことも必要であろう。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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