ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

15 ギックリ腰

ドイツ語では“魔女の一撃”

「床の物を拾おうとした瞬間に腰に激痛が走り、起き上がることもできなかった。その後も腰を曲げると痛くて、車の運転がつらい」と私どもの施設を訪れる患者さんがおられる。これら急性腰痛を「ギックリ腰」と総称する。ギックリ腰という医学用語は存在しないが、ドイツ語では、Hexen schuβ(魔女の一撃)と呼ぶ。魔女でなくても女性の一撃は確かに怖い。なお、患者さんのなかには「びっくり腰」と表現される方がおられるが、言い得て妙である。

ギックリ腰の原因として多いのが「椎間関節症」である。脊椎(せきつい)は前方の椎体間関節と後方にある一対の上下関節突起間関節の三つの関節によって繋がりを形成しているが、このうちの上下関節突起の間を覆う滑膜のヒダがはまり込んでしまった状態が椎間関節症である。

朝起床時の腰のこわばりと動作開始時の(片側性の)限局した痛みを特徴とする。また、痛みが存在する部位の棘(きょく)突起(背中に連なって触れる骨のでっぱり)を左右に動かすことで、痛みが増強する。この椎間関節症は、慢性化することがあるので放置してはいけない。ペインクリニックでは、診断的意義を含めて椎間関節ブロックを行っている。一度のブロックで完治を得ることも稀ではない。

その他、ギックリ腰の原因として椎間板ヘルニア、脊柱支持靭帯の異常、筋筋膜性のものなどが挙げられる。患者さんのなかには、ギックリ腰はすべて椎間板ヘルニアと考えている方がおられるようだが、決してそうではない。

余談ではあるが、腰に対する感覚は日本語と英語では異なることを紹介する。通常、「腰」を指す英語はwaist(ウエスト…腰のくびれ)であるが、腰痛はwaistacheではなく、backache(背中痛)である。この英語表現は正しいといえる。なぜならば、一般に「腰痛」とは、ウエストの痛みを指すのではなく、back(背中)の下部からhip(臀部)までの痛みを総称することが多いからだ。ダンスで腰を振る様をswing one’s hipと表現することも腰に対する思い入れが、日欧(米)で異なるゆえんであろう。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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