ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

18 帯状疱疹後神経痛

痛みとつき合う覚悟必要

帯状疱疹(ほうしん)(ヘルペス)の原因である水痘ウイルスが、末梢(まっしょう)神経を食い荒らした結果、新たな痛みを作り出すことがある。これが帯状疱疹後神経痛であり、代表的な神経因性疼痛である。帯状疱疹による水疱がかさぶたとなって脱落する頃に、それまでとはまったく性質が異なる「うずくような」「灼けるような」「電気が走るような」痛みが出現する。

帯状疱疹は二十歳代と五十歳以降に多く発症するが、若い人の場合、この神経痛が生じることはほとんどなく、発症時の年齢が高くなるに連れて神経痛への移行率が高くなる。例えば六十歳代では六割、七十歳代では七割といった具合に。

不幸にして神経痛への移行がみられた場合、耐え難い痛みが一日中持続し、さらには「ズキーン」とした電撃的な間欠痛が起こる。なお、不思議なことに痛みのある部位をつねっても針で刺しても痛くない、かと思えば風が吹いたり軽く触れただけで鋭く痛むということもある。これは末梢神経が変性してしまったことを裏付けるもので、反射性交感神経性萎縮(いしゅく)症やカウザルギーなど他の神経因性疼痛にも共通してみられる特徴である。

帯状疱疹後神経痛の治療は一筋縄ではいかない。通常の鎮痛薬はまったく効かない。また、ペインクリニックでも、種々の神経ブロック療法やイオントフォレーシス療法、レーザー治療、刺激鎮痛法などを総動員して、治療にあたっているが、一、二回の治療で痛みが消失するものではない。薬物治療としては、痛みを抑制する神経系の働きを強くする三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)、障害を受けた神経の異常興奮を抑制する抗痙攣(けいれん)薬(カルバマゼピン)などを処方する。しかし、何よりもご自分の痛みを理解し、「痛みとつき合っていく」姿勢を持つことが不可欠である。

「疲労つもりて引出ししヘルペスなりといふ八十年生きれば そりやぁあなた」
斎藤史の歌集『秋天瑠璃』に収められた歌である。この歌からは、「ヘルペスをともかくは伴侶として生きて行かねばならない」とする覚悟のようなものが読んでとれるはずである。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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