ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

17 腰椎分離症

成長期に過度のスポーツは厳禁

K山君(17)は小学生のころからサッカーを続けているが、「練習中に体を後ろ向きに反り返らせた途端に激しい腰痛を感じた」と、私どもの施設を受診した。腰を反らすことができず、腰椎の棘(きょく)突起(背中に連なって骨のでっぱり)を押さえると痛みを訴えた。レントゲンで第五番目の腰椎と骨盤を繋ぐ関節突起(犬のテリアの首のように見える)に分離を認め、「腰椎分離症」と診断した。

腰椎分離症とは、下部の腰椎、とりわけ第五腰椎関節突起間部に亀裂を生じて、腰痛を来す疾患である。イヌイット(北極圏の原住民)に多くこの分離症が発見されたことから、遺伝的、先天的な原因が指摘された時期もあったが、現在では、骨格が未熟な成長期に過度のスポーツ活動を行った場合に発生する疲労骨折であると考えられている。なお、分離症に加えて腰椎が前方にずれる状態を腰椎分離すべり症と呼ぶ。

一般の人の4~7%に分離症(すべての腰痛患者の10%)を認めるが、スポーツマンではその四~五倍の頻度となる。特に重量挙げ、ボート、柔道、器械体操などの選手に多い。

関節突起はzygophysisと呼び、ギリシャ語で「くびき」を意味するzygonと骨の突出を意味するapophysisから成っている。くびきとは一対の牛馬の首に掛けて荷物を引く用具であるが、比喩的にふたつの物を繋ぐ物を指す。分離症ではこのくびきの断裂によって、支持性と可動性といった腰の機能が損なわれ、腰痛を起こすのである。

早期発見が大切になる。分離症の発生早期にはその亀裂はわずかであるが、期間を経ると広くなり、偽関節を作ってしまうこともある。一方、早期に発見し、安静を保持(スポーツを中止し、コルセットを装着する)した場合、亀裂の再癒合が期待できる。

サッカーW杯の影響で、さらにスポーツに情熱を傾ける子供さんが増えることは想像に難くない。喜ばしいことではある。しかし、適切なプログラムに基づいての練習を忘れないでいただきたい。この腰椎分離症を予防するには、成長期に過度のスポーツを行わないことが大切なのである。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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