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Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

47 「痛み」の比較民族学

鎮痛薬の消費量は米国の3分の1

民族学的見地からみると、その民族性によって痛みの表現法、感じ方、捉らえ方にはずいぶんと違いがあることに驚く。日本人は「あいた!」と叫ぶが、お隣の中国では「アトン」(トンは「疼」)、韓国は「アッパ」、フィリピンは「アライ」である。ヨーロッパの国々では、ドイツ「アウア」、フランス「アイー」、イタリア「アイア」となる。そしてアメリカの「アウチッ」は有名であろう。こうしてみると「ア」で始まる表現の多いことに気づくが、言語学的分析によれば、この「ア」は人類共通の奇声であり、その後に大脳を通過して出てくる文化的言語(日本の「痛」、中国の「疼」など)が続くらしい。

痛みの感じ方を民族別に調査した結果では、東洋人、インド人、北ヨーロッパの人々が、ラテン系や地中海沿岸の人々と比較して痛みに強く、特に日本人の我慢強さが際立っているらしい。

「アウチッ」とオーバーに叫ぶアメリカ人は「痛みは悪者である。悪者は退治しなければ」と割り切って考えるようで、騎兵隊を連れたジョン・ウエインの登場と相成る。ジョン・ウエインは鎮痛薬であり、そのせいかアメリカでの鎮痛薬の消費量はわが国の約三倍、無痛分娩の普及率も95%以上と高率である。

さて、日本では「我慢は美徳である」とするサムライ・スピリットがもて囃(はや)され、我慢によって精神を鍛練するのだとの考えが根強く残っている。私の子供時代を思い返すと、痛い思いをしても母親は簡単には泣かせてくれなかった。

「男の子でしょ」と言った具合にである。母親にしても子供が痛がっているのを見て、共にその辛さに耐えることが良い親子関係を作り上げることになると考えていたようだ。また、「おなかを痛めた子」と表現されるように、出産時の痛みに耐えることが良い母親になるための条件のようにも捉えられている。

果たして痛みに耐えることが本当に美徳なのだろうか。答えは「ノー」である。確かに我慢は精神修養にはなるだろうが、痛みに耐えることによって病気の治癒が促進することはない。ここでは、映画『レッドサン』でアラン・ドロンやチャールズ・ブロンソンを向こうに大立ち回りを演じた三船敏郎に鬼籍からご登場願おう。

誤ったサムライ・スピリットをバッタバッタと斬り捨ててもらいたいものだ。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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