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48 外傷性頸部症候群(鞭うち症)

自律神経失調症状を伴う場合も

「外傷性頸(けい)部症候群」とは、自動車事故やスポーツ中のけが、労働災害などによって頸椎に本来の可動域を超える外力が加わった結果、後頭部、後頸部~上肢の痛みやシビレなどを生じるものである。他覚的所見に乏しく、X線やMRIでも異常を認めることは少ない。

なかでも自動車の衝突事故によるものは「鞭(むち)うち症」として広く知られている。一九二八年、アメリカのクロウが、「頸椎があたかも鞭がしなるような運動を行った後に生じる一連の疾患群」として報告した。以後、医学的、社会的に多くの問題を提起し現在に至っているが、最近では「鞭うち症」の名称は使われない。

ペインクリニックとこの疾患群との関わりは古く、恩師の故兵頭正義教授は「ペインクリニックを大阪医大に開設した当初は、日夜、鞭うち症の対応に追われたものだ」と述懐されていた。昭和四十年頃のことだが、実に年間四百名の患者さんの治療にあたったとする記録が残されている。その時期に星状神経節ブロック、頸部硬膜外ブロック、トータル・スパイナル・ブロックなどを治療に取り入れていた事実には改めて驚かされる。現在、私たちも同様のブロック療法による治療を行ってはいるが、兵頭教授から直接手ほどきを受けたトータル・スパイナル・ブロックを駆使し得ることは大きな財産である。

なお、これらのうち、自律神経失調症状を伴うものを「バレリュー症候群」と呼ぶ。受傷後しばらくして頸部の交感神経(自律神経の一種)系の異常興奮が起こり、前述の痛みやシビレに加え、めまい、かすみ目、耳鳴り、吐き気、ふらつき感といった多彩な症状をきたす。私はこの異常には椎骨動脈周囲にある後部頸交感神経の関わりが極めて大きいものと考え、薬液をより深部に浸透させ得る「局所麻酔薬注入・低周波通電併用療法」を独自に考案し、良い治療効果を得ている。詳しくは『治したいならこの名医』(朝日新聞社刊)に掲載されているので、そちらをごらん頂きたい。

自動車業界においても、衝突時の頸部への負荷軽減のための工夫が試みられてはいるが、エア・バッグ付きの車であっても油断禁物である。現在、首にポリネックを巻いている方には、交感神経系の異常が起こる前にペインクリニックを受診することを勧めたい。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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