ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

49 胸郭出口症候群

同じ姿勢で長時間作業、避ける

胸郭とは、頸(けい)椎の下部に存在する胸椎、肋(ろっ)骨、胸骨によって囲まれた籠のようなものである。胸郭の上部には鎖骨が横たわり、背部には肩甲骨がある。肩甲骨には上腕骨がぶら下がっている。これらの骨を固定しかつ動かすために、様々な筋肉がこれらの骨に付着しており、頸部からの神経(腕神経叢(そう))や上肢に血液を供給する鎖骨下動脈や静脈はこれらの骨や筋肉の間をくぐり抜けている。

「胸郭出口」との解剖学的用語は存在しないが、胸郭の出口つまりは鎖骨の上部で、腕神経叢や鎖骨下動・静脈が、筋肉や頸肋(第七頸椎、時に第六頸椎から発生した余分な肋骨)や第一肋骨に圧迫されて起こるのが「胸郭出口症候群」である。原因別には、斜角筋症候群、頸肋症候群、第一肋骨症候群、肋鎖症候群、過外転症候群に区別される。後頸部~肩のこり感、上肢のだるさ、しびれ感、痛みなどを呈し、頭痛や手指のチアノーゼを起こすこともある。症状の増悪による不眠、起床時の手指の腫れをみることも少なくはない。なお、重い荷物を持つ、髪のセット、シャンプーなど上肢の下垂、拳上による症状の再現が特徴的である。

最も多くみられる斜角筋症候群は、二十~三十歳代のやせ形の女性で、かつ上肢や手指を酷使する職業に目立つ。この点に関しては、男性の鎖骨は上外側に、女性のそれは下外側に発育するために女性の方が圧迫を受けやすいと考えられる。思春期の女性が「なで肩」になることにも起因する。また、「頸肋」は全人口の1~2%にみられ、女性に多い。

レントゲン検査によって頸肋や第一肋骨の形態の異常を確認できれば診断は難しくないが、これらが症状と結びつかない場合もある。また、レントゲンや神経学的検査ではまったく異常を認めないことも多く、「血管圧迫テスト」が広く用いられている。

整形外科では、温熱療法や牽引(けんいん)、マッサージ、消炎鎮痛薬の投与などに加えて、症状が強い場合には頸肋切除術、第一肋骨切除術、斜角筋切離術が行われる。一方、ペインクリニックでは、星状神経ブロックから治療を始める。その他、経過をみながら腕神経叢ブロック、前斜角筋ブロック、神経根ブロックなどを選択する。

いずれにしても、まずは症状が憎悪するような体勢は避け、同じ姿勢での作業を長時間続けないようにすることが肝要だろう。「肩すくめ」などの軽い体操も有効である。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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