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Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

69 ニューロパシックペイン

風が当たっただけでも感じる痛み

国際疼痛(とうつう)学会は「痛みは身体への危害(侵害刺激と呼ぶ)に対する警報としてのみではなく、本来は痛みを生じない刺激(非侵害刺激)が加わった場合、さらにはこれらの刺激がない場合にも起こり得る」としている。かみくだいて言うと、針を指に突き刺せば痛いのは当たり前ではあるが、風が皮膚に当たっただけで痛みを感じる状態も存在するわけである。

「ニューロパシックペイン(神経因性疼痛)」とは、この非侵害刺激によって痛みを生じる状態の総称である。ここでの痛みは損傷の治癒を促進するような警告の意味を持たず、その痛みの強さは侵害刺激の大小に比例しない。

本症は痛みを末梢(まっしょう)から中枢へと伝える刺激伝達機構、逆に痛みを押さえつける疼痛抑制機構の何らかの変調によって生じる。これには「痛みの感作」と呼ばれる末梢性ないしは中枢性の疼痛修飾機序が関与する。

代表疾患としては、末梢神経損傷による帯状疱疹(ほうしん)後神経痛、幻肢(げんし)痛、腕神経叢(そう)引き抜き損傷後痛、反射性交感神経性ジストロフィー、脊髄(せきずい)では脊髄損傷後痛、脳障害による視床痛がある。

さまざまな治療に抵抗性を示すことから、単一の治療法で効果を得ることは少ない。ペインクリニックでは、交感神経系の神経ブロック療法、刺激鎮痛法、種々の薬物の投与を組み合わせてその治療にあたっている。薬物としては、三環系抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、鎮(ちん)咳(がい)薬(デキストロメトルファン)などを本来の適応以外の効果を期待して用いる。

あるペインクリニックの医師は、登頂困難な連峰に例えて、「現在の医療は麓にベースキャンプを設営したに留まる、ペインクリニックに携わる医師でさえ登山家が山を知るほどには詳しく本症を知り得ていないのではないか」としている。

ニューロパシックペインは、患者さんと治療に携わる医師に相当な忍耐と我慢を強いるのである。考え得る限りの治療をもってしても未だ克服が困難な痛みであることを、認識しておかなければならない。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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