ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

82 心因性疼痛症

周囲の態度が痛みに影響

臓器や器官などの異常が認められないと、精神的な因子が根底にあるのでは、と考えてしまう医師が多い。しかし、実際には最新の検査法を駆使してもその原因をつきとめることが不可能な痛みが存在する。

「心因性疼痛」とは、心因(心理的な要因)のみが原因となる痛みを指すわけではない。関西医科大学診療内科の中井吉英教授は「臓器などの器質的な異常に見合う以上に痛みを訴え、心理的要因と痛みとが相互に影響を及ぼし合っている状態」と定義している。心理的要因が病因論的に痛みを修飾していると考えればよい。

いずれにせよ「心因性の…」との病名を容易に用いることは問題である。痛みの実態を不明確にし、患者さんの症状の慢性化を一層助長することに他ならないからである。患者さんの訴える痛みが“ウソ”“気のせい”とのニュアンスを含んでしまうことも否めない。

この心因性の加重が大きいと考えられる痛みには、いくつかのパターンがあり、①心身症型、②うつ病型、③オペラント学習型(痛みの存在を周囲に訴えるための行動をとる)、④回避学習型(痛みのある部位を必要以上にかばうような行動をとる)、⑤妄想型(心気症を含む)に分類されているが、①や②の場合には、痛みの軽減が必要となる。

私どもの外来での印象ではあるが、心因性の加重が大きいと思われる痛みを訴えられる患者さんに共通しているのは、女性では、ご主人が治療に協力的な態度を示さない、知らんぷりの傾向が強いことである。むろんその逆もしかり、である。この状況がオペラント学習型の痛みを生みだしているのかもしれない。

ペインクリニックでは、痛みとそれに伴う苦痛の軽減を目的として、神経ブロック療法、筋弛緩(しかん)作用をもつ抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬の投与、鍼治療などを行っている。治療に対する反応をみることが、その後の治療の糸口となる。痛み自体は変化しなくても、食欲や睡眠、表情や身なり(女性では化粧の有無)が改善することも多いのだ。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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