ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

89 プラシーボ

人体に備わった自然治癒力のひとつ

「プラシーボ」とは偽薬、つまりはニセの薬のことであり、ラテン語の「喜ばせるもの」との言葉に由来している。一般的には、新しく開発された薬の効果を調べる際に用いられることが多い。試験への参加に同意された患者さんを二つのグループに分けて、一方のグループには新薬、他方には外見が本物とそっくりの偽薬を投与して、その薬理効果を比較するのである。

ペインクリニックにおいても、入院中の患者さんにこの偽薬を投与することがある。例えば、何らかの痛みにより何度も鎮痛薬を要求されるような場合、乳糖の経口投与、生理食塩水の注射などを行うのである。これが時として効くことがあり、「プラシーボ効果」と呼ぶ。

担当の看護師からは「生理食塩水で痛みが止まるんやから、あの患者さん、ほんまは痛くないんやわ」と聞かされるが、あながちそうとは言えない。

「暗示的効果じゃないの?」と思われるかもしれないが、プラシーボ効果は医学的にも立証されているのだ。一九九五年に、米国の医師ビーチャーが、狭心症、頭痛、手術後の痛みなどに苦しむ患者さん千人に対して、偽薬の治療効果を検討している。結果はまことに驚くべきものであり、35%で症状の改善が見られた。さらに興味深いことに、その効果は、痛みや苦悩が激しければ激しいほど大きかったのである。

プラシーボ効果は日常のさまざまな場面でも応用できる。例えば、バス旅行に出かける際に、「私、乗り物酔いがひどくって」と訴えられる方には、薬っぽく見える粉末を与えてみてはいかがだろうか。三割の割合で乗り物酔いが防げるのである。

ただし、たとえ偽薬であっても副作用をもたらすことがあり、注意が必要だ。弘前大学の尾山力名誉教授は、偽薬によって眠気、頭痛、集中力の低下などが起こることを指摘している。

「人体こそ最良の薬屋である」との言葉があるが、プラシーボ効果は、人体に備わった自然治癒力のひとつなのかもしれない。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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