ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

107 長引く術後痛

すべての手術に発生する可能性

「手術を受けてからずいぶんと経つのですが、いまだに痛いんです。手術の失敗ですか?」と私どもの外来を訪れる患者さんがおられる。手術の失敗ではなく、現時点では避けることができない痛みなのである。この「長引く術後痛」は手術部位や手術方法により症状は異なるものの、すべての手術がこの痛みを発生する可能性を含んでいるのである。

まず、手術後の傷痕に一致して痛みがあり、触れるとピリピリとした痛みが誘発される場合には、「瘢痕(はんこん)性疼痛(とうつう)症候群」が考えられる。原因の多くは、末梢(まっしょう)神経の切断端に発生した神経腫(こぶ)であるが、局所麻酔薬と副腎皮質ステロイド薬の局所注射によって完治することも稀ではない。

次に、肺の手術などで背部~側胸部を切開した後に、手術直後とは性質の異なる痛みが六か月以上続くのが「開胸術後痛症候群」である。手術を完遂するためには避けがたい後遺症であり、肋骨の下を走る肋間神経の損傷による。胸部硬膜外ブロック、メキシレチン(抗不整脈薬)の投与などで対処している。

肺がんの手術を受けたYさん(62)は、術後、側胸部の傷痕付近にしびれ感と痛みが続いていた。詳しくお話をうかがうと、定期的に受けている気管支鏡検査のあと約一日間は、痛みが消失するとのことであった。つまり気管支鏡検査の際に噴霧するリドカイン(局所麻酔薬)が血液中に吸収されて効果を発揮していたのである。その後、Yさんにはリドカインと同じ作用をもつメキシレチンの内服を勧めたが、痛みは気にならない程度まで減少した。

その他、四肢の切断後の「幻肢痛」、心臓手術後に前胸部が痛む「胸骨切開後痛」、直腸がん術後の「旧肛門部痛」なども「長引く術後痛」の仲間である。

以上のことから、麻酔科医はプレエンプティプアナルゲジア(先行鎮痛)、つまりは痛みを残さないための予防的鎮痛を術前から心掛けている。が、しかし、残念ながらにいまだに「長引く術後痛」は発生している。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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