ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

11 肩こり

漱石が名付け親?

欧米には「肩をたたく、もむ」の習慣がないと聞く。英語などには肩こりを的確に表す言葉がない。一方、日本では古くから「肩身が狭い、肩をもつ」との表現が使われてきた。これは、日本人が肩を仕事や対人関係などで負担が強くかかる部位ととらえてきたことに他ならない。事実、日本人の70―80%がストレスや疲労などによる肩こりに悩んでいる。
 なぜ、日本人に肩こりが多いのか。頭の大きさに比べ、支える首の骨が細く、周囲の筋肉に適度の負担がかかっていることにある。まるで『不二屋』のペコちゃんなのである。
 樋口一葉の短編『ゆく雲』には「用をすれば肩がこる」とある。明治の人も「肩のはり」に悩まされていた。また夏目漱石の『門』には「頸と頭の継目の少し背中へ寄った局部が石のように凝っていた」とあり、漱石こそ「肩こり」との言葉を初めて用いた人と考えられる。
 肩こりの原因はさまざま。急性では寝違えや頚椎捻挫【けいついねんざ】など、慢性ではストレス、姿勢異常など。頚椎椎間板ヘルニヤや変形性頚椎症が原因になることも。また、内臓の異常が肩こりに現れることもある。例えば狭心症や心筋こうそくでは左肩、胆のう、肝臓の障害では右肩のこりという具合である。ペインクリニックではツボへの局所注射を行う。肩こりの患者さんでは肩から肩甲骨の内側に沿って押さえると響きを感じる部位があるが、これは東洋医学的な肩井【けんせい】、肩外兪【けんがいゆ】、膏肓【こうこう】、などのツボに一致する。肩外兪に強い響きを認める場合は肩甲骨の内側に付着する筋肉の慢性的疲労と診断できる。この局所注射で筋肉の緊張がとれ、こりを伝える神経が和らぐ。
 さらに星状神経節ブロック。星状神経節は頸部にある交感神経の集まりで、血流の調節を行う。局所麻酔薬を注入すると、縮んでいた血管が開き、血流が良くなり、筋肉がやわらかくなる。交感神経による筋肉腺維の直接的な支配がわかっていることから、星状神経節ブロックは肩こりに合目的な治療法だろう。
 私の息子は『不二屋』の前を通ると、いつもペコちゃんの頭をなでる。愛想よく頭を振ってくれるが、肩こりに耐える笑顔のペコちゃんには、申し訳なく思う。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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