ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

42 五十肩

江戸時代は長命病だけれど…

「五十肩」との病名は俗称である。中高年者の肩の痛みとそれに起因する運動障害の代名詞として用いられているのである。その定義については、加齢による退行性変化(血流障害などによる)であり、肩関節に明らかな器質的異常を認めないものと考えてよいだろう。

痛みのために腕を挙げることが困難となり、夜間の痛みにより不眠に陥る。患者さんは、「シャンプーができない。エプロンのひもが結べない。服の脱ぎ着が困難だ」と訴えられる。多くの場合、痛みは半年~一年で自然に消失し、再発することは少ない。しかし、自然に治癒するからと言って放っておいてよいはずはない。海外では、拘縮に至ったものをfrozen shoulder(凍結肩)と呼ぶことからも、肩を全く動かせない状態に陥ることがあるのだ。

江戸時代の俗語や俗諺などを集めた国語辞書「俚言集覧(りげんしゅうらん)」には、「およそ、人五十歳ばかりのとき、手腕、骨節痛むことあり、程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり。俗に之を五十腕とも五十肩ともいう。人、長命病という」とある。確かに長命病のひとつであるのかもしれないが、喜んではいられない。

一般的な治療法は、鎮痛薬やトランキライザーの服用、湿布薬の貼付、ヒアルロン酸の肩関節内注入などである。自宅での、アイロン体操(アイロン程度の重さの物を持って、振り子運動を行う)も拘縮予防には効果的である。

ペインクリニックでは、これらの治療法に加えてトリガーポイント注射、肩甲上神経ブロックと言った神経ブロック療法、鍼治療(「尺沢」「中府」「手三里」「巨骨」「外関」などのツボへの低周波通電)などを行っている。発症早期であれば、一回の神経ブロックで治ることも多い。ところで私も白衣を着ることも困難な肩の痛み(「四十肩」にしておこう)を自覚し、肩甲上神経ブロックを受けたことがある。その効果は劇的であった。一回の治療で、通勤時に吊革を持てるほどになったのである。体のパーツが耐用年数を過ぎて起こる障害の代表が「四十腰」「五十肩」である。しかし、「もうポンコツなんだ」とクサることはない。だって、「四十、五十は鼻たれ小僧」。その伝でいくとまだ前途遼遠(りょうえん)なエイジなのだから。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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