ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

43 全人的医療

科学だけでは「手当て」できない

近代科学は分析的な手法をその礎として発展してきた。換言すれば、すべての事象には客観的な真理や真実が必ず存在するとの客観主義を根本としてきた。この点に関しては医学も同様であり、事実の分析を重ねることで、医学は常に「科学」であるべきとする姿勢を守り続けてきた。しかし、この科学のみで人を「手当てすること」は可能だろうか。「病」には科学だけでは解決できない多くの問題が内包されている。

現在、医療の現場は狭い分野に細分化された臓器別医療が中心となっている。臓器別医療とは、おのおのの臓器別に専門医がいて、その専門分野を担当する医療形態を指す。確かに医療の進歩、高度化に伴って医師が要求される知識量は膨大なものとなってきている。より質の高い医療を提供でき得るとの点からは、この臓器別医療による恩恵は大きい。しかし、医療の原点は他にあるのではないだろうか。これらの反省を踏まえて、初診患者さんを担当する総合診療科を設ける病院が増えているが、総合的な判断ができる医師を育成するには相当の時間を要する。また、医学教育にも多くのゆがみが存在している。

これら現在の医療における弊害を解決し得るキーワードが「全人的医療」である。全人的医療とは臓器別に病気を扱うのではなく、人をトータルに診るものである。

私が従事しているペインクリニックは、痛みの原因を診断、治療する科目であり、特定の臓器のみを対象とすることはない。「科学」によって症状を分析し、原因となる臓器を特定した上で治療を提供するとの手順は患者さんに苦痛を強いることになる。たとえ原因が特定できていなくとも、少しでもその症状、痛みを和らげようとすることが医療本来の姿であろう。特に慢性の痛みを抱えておられる方では「こころ」の問題が大きくかかわって、「科学」のみをもって対処できるほど単純ではない。これに対して、ペインクリニックとは人の「こころ」と「体」の関わりを考えることから始まった医療であり、全人的医療を目指すものであると考えている。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

ページトップに戻る
Copyright © Morimoto Clinic. All Right Reserved.